保全(conservation)と保存(preservation)

国島 丈生
knsm.net
Published in
2 min readOct 17, 2016

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ソフトウェア修復学というもの(学問なのか実践なのかよくわかりませんが)を考えていきたいという話は前に書きました。その流れで、これを英語ではなんと言えば良いのだろう、とふと考え、調べていました。

参考になるのはやはり文化財保存修復という分野で、学科もありますし、学会もあります。これらを見てみますと、 “Cultural Property Conservation” というようです。conservation は「保全、保存、維持」といった意味ですね。いま考えている「ソフトウェアの修復」というものも、バグ取りといった意味での修理ではなく、ある時ちゃんと動作して価値を持っていたソフトウェアを維持するという意味での修復ですから、software conservation というのが正しそうです。

ところで、この件で調べているうちに、「どう訳す?Environmental Conservation vs Environmental Preservation」という興味深いページを見つけました。Environmental Conservationは環境保全、Environmental Preservationは環境保存、要するに、ConservationとPreservationのニュアンスの違いを述べているページです。

このページによれば、自然を対象にする場合、conservationは「人間のために自然を守る」、preservationは「自然のために自然を守る」という意味である、と、哲学者の森岡正博氏の言葉を引用しています。また、Environmental Conservationは「環境をある基準状態に維持すること」、Environmental Preservationは「環境を原状に近い状態で維持すること」という違いがあるとも述べています。

この定義に倣うなら、VMなどの技術を用いてソフトウェアをOSも含めて丸ごと動態保存するのが software preservation、今の環境に合わせてソースコードを補修しながら動く状態を維持するのが software conservation となるように思われます。考えていきたいのは後者ですね。やはり software conservation という訳が正しいようです。

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情報科学分野の大学教員。遠距離通勤の道すがら写真を撮る毎日。小さいカメラが好き。BSD/Mac/Ruby/Rails/Web/関数型言語/マークアップ言語/弦楽四重奏/ルネッサンス音楽/フェルメール/北欧デザイン/写真/組版/タイポグラフィ/浄書/中世文学/陶磁器/書